インピーダンス特性の測り方 ARTA編
2009/4/29改訂(改訂履歴はココ


「なんかメンドウそうだし高そうだし、インピーダンス特性とか無理」

・・・とお嘆きのあなた!

偉い人が作ったソフトがあるからダイジョーブです。

1,000円〜5,000円くらいで下図のような立派なインピーダンス特性が取れます。

【図1.ER-4sのインピーダンスと位相特性】



・・・・一応お約束。
いくら簡単とはいえ
結線がショートしたりして
最悪PCやヘッドホンを破損させたりする可能性もあるかもしれませぬ。
自己責任でお願いしますね。

1.用意するモノ

(1)100Ωの金被抵抗 2本
自分は誤差1%、1/2Wのを使いました。1本30円くらいなもんしょう。
1本は校正に使うだけなので、1本でも可です。

(2)ステレオミニの延長ケーブル2本
片側オス、もう一端がメスのやつです。
30cmとか50cmの短いのが良いです。

(3)半田ゴテ/ハンダ

(4)ケーブル切断、被覆を剥くためのワイヤストリッパーかニッパー


2.インピーダンス測定用のケーブル作製

上の材料を使って、半田付けして以下のようなケーブルを作ります

ショートさせたりすると、PCを破損させる恐れがあるので十分注意して結線のこと!

詳しくは下記URLのマニュアルを参照
http://www.fesb.hr/~mateljan/arta/download/LIMP-user-manual.pdf



3.ARTAのダウンロードと起動

(1)以下からDLしてセットアップ。(2009年4月18日現在最新バージョンは1.50)
http://www.fesb.hr/~mateljan/arta/download.htm


なおデータのセーブ/ロードをするには有料の登録が必要ですが、
その他の機能の制限は無い・・と思います。


(2)Limp(インピーダンスを測るアプリ)の起動
起動時に下記のレジストレーションウィンドウが出るので
まずは「Contiue in Demo mode」でデモ版として起動。


4.Limp(インピーダンスを測定するアプリ)の設定

文章で書くと長いですけど、設定は全体でおおよそ5〜10分程度かと。

(1)SetUpからサウンドカードの出力/入力ポートの選択。


※以下Vistaの画面になってますが、気にしないでください。
 ・・・・いや単に途中で気変わりしただけです。



(2)次に測定条件の設定
重要・・と思われる設定は3点
@Reference channnel:俺ケーブルの場合は「U1」は入力のRchに接続されてるので「Right」。
AReference Resistor:100Ωの金皮抵抗の実測値。普通に「100」としても問題なし。
BAveragingとMax averages:大きい方がノイズの少ない綺麗なグラフになります。
      適当に「100」としていますが低い値でも問題なければ「Averaging」は「none」でもOK。



(3)次に刺激信号の選択と出力レベルの選択。

【2009/4/29追記】ここから、上で作成したケーブルをPCのヘッドホン端子と録音端子につなげておきます。
@Type:
デフォルトだとピンクノイズ「Pink PN」になってます。
「Sine」の方が測定時間はかかりますが、Pink PNよりも綺麗なグラフがとれます。
この辺はお好みで・・・

AOutput level:
音量が大きすぎるとヘッドホンが破損するかもしれないので、
最初は「-10dB」くらいで恐る恐るやった方が良いかも。



(4)校正
これで設定は最後。文書で書くとやっぱ長いっすね。

最初に校正の精度を上げるため「Number of averages」の数字を少し上げておきましょう。
ここでは「8」としてますが、これで9dBほどS/Nが向上する・・はず。
(「8」の場合2^N=8なので N=3なので 3dB×3=9dB。 「16」とすればN=4なので3dB×4=12dB程S/N向上)
「Generate」で信号を出力し、次に「Caribrate」(校正)ボタンを押してしばらくすると「Status」欄に情報が出ます。
「Status」欄に情報が表示されたら「OK」で閉じる




5.動作チェックと測定精度の大まかな確認

さあお楽しみの測定!

・・・・の前に、測定精度を簡単に確認しときますか。

【図2.100Ω1% 金皮抵抗のインピーダンスと位相特性】


期待どおり周波数依存性の無い「真っ平ら」なインピーダンス/位相特性が得られますた。
絶対値としては103.4Ωとなっており誤差が3%程度出ていますけれど、十分使える精度だと思いますが如何でしょう?

6.実際に測ってみる

さあお楽しみの測定!

試しに以前オイラが「よく似てる」などと適当なことをホザいていた、DENONのAH-D5000とAH-D7000を測ってみましょうか。


【図3.DENON AH-D5000とAH-D7000のインピーダンス特性】
黄色:AH-D5000
緑:AH-D7000



・・・しかしAH-D7000のFsが29.7Hzて・・・
AH-D5000とAH-D7000のFsの低さは何か物凄いものがあるような気がします。


非常に似てることは似てますが、詳細なパラメータを見ると
AH-D7000の方が僅かにFsが低かったり、Qが大きめだったりとそれなりの違いが見受けられますねん。




・・・・と言った風に、ナゾの楽しみ方が出来るわけであります。


補足1 ARTAはどんな仕組みでのインピーダンス測定をしているのか?
【2009/4/29追記】

大まかにでも測定の仕組み知っていると、測定誤差がおおよそどの程度あるのか把握したり、精度の向上を試みたりするうえでとっても助かります。

この点、ARTAのマニュアルは単なる操作説明に留まらず、原理からしっかり書かれているのでとても素晴らしいっす。
原文を読まれることを強くオススメします。(たとえこのソフトを使わないとしても得るところが沢山あると思います。)

・・・とはいっても「英語だしマンドクセ・・・」という方も多いかと思いますので、ここでは重要と思われるごく部分を抜粋したり、他の参考資料から俺補足してみま
す。

・・・間違ってなければ良いのですが。間違う事については自信がありますし、俺。・・・スイマセン。



(A)どんな測定方法なのか?

「定電圧法」(constant-voltage procedure)と呼ばれるものの一種で、元々の方法はT/SパラメータのパイオニアであるThiele氏(T/Sパラメータ=Thiele/Small
パラメータの「T」の方ですね)が提唱した方法らしいす。("Testing Loudspeakers/Joseph D'Appolito" P.23)


定電圧法は本来であれば、下の一覧の「定電圧法1」のように交流電流計を使って電流値を観測するのがベストなのですが、
「高い周波数まで観測出来る交流電流計」が非常に高価!・・という致命的な問題があります。
(自分は詳しくないですが、おそらくオシロスコープのオプションであるホール素子を使った「電流プローブ」が適当だと思いますが、安価なものでも30万円以上
はします。もちろんオシロスコープも別途必要です。無理ポ・・・orz)

そこで、比較的安価な交流電圧計で測定出来るようにすべく、下の一覧の「定電圧法2」ようにヘッドホンのドライバと直列に電圧参照用の抵抗を入れて、この
照用の抵抗の両端2点の電位差を測定することで、ドライバのインピーダンスを測定する方法が取られています。

ARTAではこの「定電圧法2」の方法を採用して、さらに交流電圧計を使う代わりにマイク入力のLchとRchを使い、それぞれのA/D変換値の差分を電位差に読
み換えているようです。
安価なサウンドカードのマイク入力のA/D変換でも結構な精度/リニアリティーが出ることが自分には驚きであります。


(B)定電圧法以外にはどんな測定方法があるの?
この「定電圧法」以外にも、「定電流法」(constant-current procedure)や、voltage-divider techniqueという測定方法がありますが、これらは定電圧法と比べる
と大きな抵抗(1MΩ等)を使わなければならず、測定時のDFが極端に小さくなってしまい(=逆起電力の効果が低くなってしまう)実際の使用環境と違いが大きく
なってしまう問題点あり。


それぞれのインピーダンス測定法での特徴を以下に簡単にまとめます。
どの測定法も一長一短あり、どれが正しいというものではないようです。


インピーダンスの測定方法一覧
測定方法
測定の概要
長所
短所
定電圧法1
実際の使用環境に最も近い状態で対象を測定できる。 (電流プローブなど)高価な交流電流計が必要。
定電圧法2
交流電流計を使わずに、実際の使用環境に比較的近い状態で対象を測定できる。
参照用抵抗によるダンピングファクタの低下が若干発生する。
定電流法
測定が比較的容易。 比較的高価な定電流出力のアンプが必要。

逆起電力によるダンピングが効かない(実際の使用環境とズレ大)。
Voltage-divider法
(※)
測定が比較的容易。

測定機器が安価な構成。
追加抵抗によるダンピングファクタの低下が大きく発生する。

(※)これは日本語でなんと呼ばれているのか知らないんですが「電圧分割法」?とでもいうのでせうか?



(C)で?ARTAの測定方法だと誤差はどんくらいあるの?


LIMP User Manual - P.6から抜粋】

マニュアルには上のように、ノイズ源やアンプの出力インピーダンスを測定誤差を考慮した「より現実の測定条件に近い」図が載っています。
(こういうとこがARTAは実にニクイです。)

Eg:アンプで発生する電圧
Rg:アンプの出力インピーダンス
R:定電圧法で使う参照用抵抗値
U1:(マイク入力の片方のchへ接続)
U2:(マイク入力のもう片方のchへ接続)
En:ノイズ発生源(煩い環境下で、スピーカーが外部からの音を捉えてマイクのように電圧を発生してしまう)
Z:測定したいスピーカーの真のインピーダンス値

・・とすると

観測されるZ=真のZ+(R+Z+Rg)/(1+Eg/En)

で、観測されるZは(R+Z+Rg)/(1+Eg/En)の誤差を含んでいる。

・・・なので、なるべく誤差を小さくするためには以下3つの方法が考えられる。

【なるべく測定誤差を小さくするには?】

@アンプのボリュームを大きくして測定する。静かな環境で測定する。(=Eg/Enを大きくする)
 これは「Egを大きく=それなりにアンプの出力を大きくする」、「Enを小さく=静かな環境で測定」に対応。
 ただし、アンプ出力をあまり大きくしすぎてしまうと、スピーカーが非線形性の大きい領域で駆動されることになり、測定の意味がなくなってしまう。
 (正しいT/Sパラメータが得られない)
 なので、普段使っている程度の音量でホドホドに鳴らして測定するのが良いかも。

Aアンプの出力インピーダンスRgを出来るだけ小さくする。
 ・・・・これは普通はPCのサウンドカードをアレコレと取り替えて試すわけにもいかないでしょうから、現実的にはあまりいじれない項目かも。

B参照用抵抗を出来るだけ小さくする。
 参照用の抵抗の抵抗値が小さければ小さいほど測定精度が上がるが、
 実際問題としては参照用抵抗の値を小さくすると電圧差も小さくなり測定精度が荒くなってしまう、というジレンマあり。
 現実的には参照用抵抗は10Ω〜100Ω程度の範囲で試して、バランスの良いところを選ぶのが良いかと。
 自分のPCのサウンドボードでは参照用抵抗200Ωで7%程度(@Z=100Ω)、100Ωで3%程度 67Ωで2%程度の誤差で測定出来ました。




改訂履歴

2009/4/18:新規作成

2009/4/29:改訂
誤記訂正
【誤】5.動作チェックと測定精度の大まかな確認
【正】6.実際に測ってみる

追記
「(3)次に刺激信号の選択と出力レベルの選択。」に以下文言追加。
【2009/4/29追記】ここから、上で作成したケーブルをPCのヘッドホン端子と録音端子につなげておきます。

「補足1 ARTAはどんな仕組みでのインピーダンス測定をしているのか?」追加



戻る
戻る