淵野辺番外地
(極寒)

このページの改訂履歴

2009/3/23(月):
新規作成

2009/3/28(土):
・誤字脱字訂正
「【測定(A)ドライバーユニット単体の応答】:測定結果の説明と俺解釈」および
 「俺学習その2」>「その2-(3)コーン状の振動板の放射インピーダンス」で間違いがある旨追記。
・同上で、320Hz付近の乱れについて、ヘルムホルツ共鳴ではないかもしれぬ旨追記。
「俺学習その3:分割振動ってどのくらいの周波数から起きているのでせうか?」追加

2009/3/29(日):
・「【測定(A)ドライバーユニット単体の応答】:測定結果の説明と俺解釈」で、320Hz付近の乱れがヘルムホルツ共鳴では
ないかもしれぬ旨追記
・「俺学習その3:分割振動ってどのくらいの周波数から起きているのでせうか?」に動画追加


まず、これだけはハッキリ言っておかねばなりますまい!


ごめんなさい。


ということで、今回のお題は・・・

【お題】

(Q).密閉型のヘッドホンってどんな風な構造なの?

(A).知らないので調べてみますか。



・・ということで、今回は密閉型の代表(何故だ)MDR-CD900STを分解して、
色々とイジリながら組み立てつつ周波数特性その他を測定し、
なんとなく、ドライバー周辺の各部の機能について推測してみませう。
といった散漫な内容です。

なにしろ、俺のことですから、大間違いな内容もあるかとは思いますけれど
そんな部分はビシッとご指摘していただれば幸いであります。(でもちょっと手加減してね。気が弱いし俺。)



その前にお約束。
【注意!】
メーカーの保証の対象外となってしまうため、ヘッドホンの分解はお勧めしません。
もしも分解する場合は自己責任でお願いします。(棒読み)





まずは密閉型ヘッドホンの基本的な構造を見ておきませう。

密閉型ヘッドホンの構造(適当)


・・・こんな感じすかね?

機種によっては、上に書いてある構成物がなかったり、
その逆に書いてない構成物があったりもします。

名称は結構適当に記入してるので注意。

例えば「プロテクター」は音響的な機能もあって
実は「イコライザー」や「ディフューザー」と呼んだ方が正しいものもあるかも。


では、大まかな構造をおさえたところでレッツ測定!

【測定方法は概ね以下です】

@マイク:BEHRINGER ECM8000
今回は、すごく安いのに(某所で5,500円(税込))なかなか高性能な測定用コンデンサマイク BEHRINGER ECM8000を使いました。

A周波数特性の測定:CLIOfw+m902
96kHzサンプルモード/刺激信号LogChirp(長さ32k、FFTウィンドウRectangular)/アベレージング8回

Bインピーダンスの測定:CLIOfw

なお、今回はマイクプリと、刺激信号再生用のアンプ(m902)のボリュームは固定して測定しています。
(ただし一部使用したバイノーラルマイクBME-200測定分だけはマイクプリのボリュームを変えました。)



【測定(A)ドライバーユニット単体の応答】:概要

ドライバ単体の周波数特性(自由空間での直接放射)を測ってみる。
この際、Bass plug(音導管。直径約5mm)と、ドライバ背面の穴(2個は開放、10個は音響抵抗の紙付き。直径約4mm。)の効果を確認してみる。

【測定(A)ドライバーユニット単体の応答】:測定結果(周波数特性とインピーダンス)

いずれもドライバから10mmの距離で測定。
@ドライバ単体の応答。何もいじってない通常の状態。
ABass plugの詰め物を取り除いた状態。
Bドライバ背面の12個の穴を全てテープで塞いだ状態。ただしBass plugは通常状態。

【グラフ(A)−1】


【グラフ(A)−2】

【測定(A)ドライバーユニット単体の応答】:測定結果の説明と俺解釈

Bass plugの効果:@vs.A
Bass plug=ポールピースに開いている穴で「音導管」とも呼ばれる、らしい。振動板の背圧調整用と思われ。「pole piece-vent」などとも呼ばれちゃうニクイヤツ。
廃熱の目的で設けられていることもあるらしい。良く知らないけど。
音響抵抗(スポンジ状のもの)をこの中に入れて調整することで、低音(900STでは概ね2kHz以下)の量とf0(100Hzあたりの共振)のダンピングをコントロールしている様子。
オープン時Aのインピーダンス特性からすると、音響抵抗で適度にコントロールしないと、振動板フリーダムすぎでとんでもなく制動が甘くなっています。
音響抵抗を入れることで、適度なダンピングと低音の量となるよう調整しているよう見えますね。あと4〜5kHzの繋がり(ここは音導管の共鳴か?)も微妙に良くなっている様子あり。

ドライバ背面の穴の効果:@vs.B
これも振動板の制動と低音の量をコントロールしている様子。インピーダンス特性を見ると、ドライバ背面の穴を完全に塞いでしまうと共振峰がペッタンコ(インピーダンス特性のB)。
どう見てもオーバーダンピングで低域不足です。本当にry)
一方、ドライバがノーマル(ってなんだ)の状態では、12個の穴の内10個が音響抵抗(使われているのは多孔質の薄い物体。要するに「紙」です)で覆われており、
適度に漏れがコントロールされている。
もしもこの音響抵抗の紙を取っ払ってしまい12個全ての穴を開放してしまうと、Bass plugの例のように制動が甘くなって低音増量となることが容易に想像されます。
ちなみに@Aの320Hzあたりにある音圧とインピーダンスの乱れは、この穴によるヘルムホルツ共鳴とお見受けいたします。(Bで穴を塞ぐとほぼ消え去っている)
【3/28追加:320Hzの乱れはヘルムホルツ共鳴などではなく分割振動のためかもしれませぬ・・・ここ参照。】

その他、ドライバのフリーフィールドの周波数特性をみると、
・150Hz〜1kHz:ほぼフラット(320Hzあたりにグリッチはありますが・・)
・1kHz〜5kHz:10〜12dB/octの音圧上昇
・5kHz〜11kHz:ほぼフラット
・11kHz〜12kHz:一旦ストンと13dB程度音圧が下がって音圧に段差が出来ている。-40dB/oct位の傾きがありそう。
 高域共振周波数(fh)は25kHz以上に見えるので、ここでストンと落ちるのはちょっと奇妙也。【※なかなか面白い特性だと思います。詳しい憶測は下の俺学習帳で。】
【2009/3/28追記:この憶測はおそらく間違っているものと思います。ごめんなさい。分割振動による音圧低下のほうが正しそうな予感。タマカさんどうもありがとうございます。】

・・・・というそれなりに特徴的な特性です。
あたりまえのようでありますが、こいつが最終的にハウジングや、バッフル、イヤパッド込みでそれなりにフラットな特性となるのだから驚きです。
綿密にチューニングされているモンですね。さすが世界のSONYです(適当)。


【測定(B)ドライバーユニット+バッフルの応答】:概要

ドライバにバッフルを取り付けて、周波数特性(自由空間での直接放射)を測ってみる。
低音が増強される「バッフル効果」が加わったことになるのだけれど、直接放射型ではない(と言われる)ヘッドホンのバッフル効果を測定したところでさほどの意味はないかも。
←バッフルをつけるとこんな感じです。
【測定(B)ドライバーユニット+バッフルの応答】:測定結果(周波数特性とインピーダンス)

いずれもドライバから10mmの距離で測定。
@ドライバ単体の応答。何もいじってない通常の状態。
Aバッフルを取り付けた状態。

【グラフ(B)−1】


【グラフ(B)−2】
【測定(B)ドライバーユニット+バッフルの応答】:測定結果の説明と俺解釈

バッフルの効果:@→A
あー・・・正直「バッフル」と呼んで良いのかよくわかりませんが、仮にこう呼んでみます。要はドライバユニットを固定している板です。
低音の出力を上げる(というか落とさない)効果あり。
理屈では直接放射型のスピーカーでは、バッフル無しと無限大の大きさのバッフル板にドライバを取り付けた場合で比較すると、
バッフル無しの場合2πa/λ=1以下(a=振動板の有効半径。CD900STで仮にa=18mmとした場合3.4kHz)で-6dB/oct減衰。(f0以下は-12dB/octで減衰)。嗚呼なんという教科書丸写しな恥知らずな俺。
...となるはずだが、今回の例ではかなり面積が小さいため効果はそれなりだが、バッフル追加により低音が増している。
インピーダンス特性はほぼ同一。(細かく言えばバッフル付きだと、空気の負荷増加のためかf0がごく僅かに低域にシフトしているようです。)


【測定(C)ドライバーユニット+バッフル+ハウジングの応答】:概要

ハウジングを追加した場合の応答の変化を調べます。
加えてハウジングの中の吸音材を取り除いて、この効果を調べてみるです。

  ←ハウジングの中に詰めてある吸音材。積層された柔らかい繊維のような感じ。
吸音材の出し入れにいちいちバラさないといけないのでちょっと面倒でした。(愚痴)
【測定(C)ドライバーユニット+バッフル+ハウジングの応答】:測定結果(周波数特性とインピーダンス)

いずれもドライバから10mmの距離で測定。
@バッフルだけ付けた状態。
Aハウジングを追加した状態。
Bハウジングの中の吸音材を抜いた状態。

【グラフ(C)−1】


【グラフ(C)−2】

【測定(C)ドライバーユニット+バッフル+ハウジングの応答】:測定結果の説明と俺解釈

ハウジングの効果:@vs.B
ハウジングを設けることにより、ちょっと面白いことが起きている様子あり。
予想では、単純に密閉型スピーカーのエンクロージャと同様に、キャビティ内の空気バネが追加されてf0が高い周波数側にシフトするものと思っていましたが、
実際にはf0が低くなり低音の伸びがよくなっている
これは何が起きているのか?と想像するに、アコースティック・エアサスペンション型のスピーカーと同じような効果が起きているのではないか?と思ったりします。

ドライバ背面の密閉された空気によって、
・振動版の等価質量が増加することによる効果(f0低下、Q増加)
・空気バネによる効果(f0上昇、Q低下)
の2つの効果の混ざり合ったものが現れている・・・・のかしらん?

・・・真偽のほどはさておき、測定結果によれば、ハウジングによってダンピングが効いて低音が締まり、かつf0も低下して低い周波数への伸びも出る
というなかなかグーな効果が出ている様子。
320Hzあたりの(ドライバ背面の12個の穴によるものと思われる)特性の乱れも小さくなっている。

加えて、ハウジングの追加による、高域の周波数特性の乱れが意外と少ない点も予想外ですた。
おおむね4kHz(8cm)あたりから上は、音の波長がキャビティのサイズより小さくなるので、共鳴が発生してもっと乱れてもよさそーなもんですが・・・。俺がダメ人間だからか?えっ!?

吸音材の効果:Bvs.A
吸音材を入れることによって(MDR-CD900STではキャビティ内にほぼ一杯に詰まっている格好になっています)、
さらに振動板の等価質量が増加し、空気バネを「やわらかく」する効果を高めている様子が伺える。吸音材追加によりf0は10Hz程度低下し、ダンピングもアップしている
もひとつおまけに200Hz〜500Hzあたりの繋がりもちょっぴり良くなっている感じあり。
なんだかとっても良い具合です。ブラボー。やっぱり世界のry

なお、吸音材をエンクロージャ内一杯に詰め込むと、おおよそ等価質量で12%、キャビティの容積で15%ほども増えて
空気バネが柔らかくなったのと同等の効果あり、とのこと。(教科書ry)

吸音材詰め込みによる上の効果の仕組みは、吸音材を入れることでキャビティ内の音の伝播が、
「断熱変化(PV^γ=一定)※γは定圧比熱と定積比熱の比。空気でγ=約1.4」から → 「等温変化(PV=一定) ※γ=1」に移行し、
これに伴い空気バネ(体積弾性率)=γPが低下していることによる・・・らしいっす。
理屈の上では、吸音材で最大1/1.402≒71%まで空気バネが柔らかくなることに!(教科ry)


【測定(D)ドライバーユニット+バッフル+ハウジング+イヤパッド(メッシュグリル付き)の応答】:概要

イヤパッドを付けて測定してみる。
これで最後まで組みあがったことになります。
【測定(D)ドライバーユニット+バッフル+ハウジング+イヤパッド(メッシュグリル付き)の応答】:測定結果(周波数特性とインピーダンス)

いずれもドライバから10mmの距離で測定。
@イヤパッドなし。
Aイヤパッド付き。

【グラフ(D)−1】


【グラフ(D)−2】
【測定(D)ドライバーユニット+バッフル+ハウジング+イヤパッド(メッシュグリル付き)の応答】:測定結果の説明と俺解釈

イヤパッドによって、100〜300Hzと、4kHz以上の高音が僅かに減衰しているように見える。
それ以外はあんまり目ぼしい変化なしか?ちょっと損した気分。


【測定(E)MDR-CD900STの応答】:概要

いよいよ、装着/非装着での音圧比較をしてみることに。

耳〜イヤパッド間にマイクを差し込んで割と適当に測定しています。

ただし通常の使用時に比べて密閉度が不足しないようマイクを差し込んだ部分の隙間からから空気ができるだけ漏れぬよう、パッドを手で押さえています。

同じ測定を、密閉度が確保できるバイノーラルマイク(BME-200。ただしフリーフィールドでECM8000と同等な音圧特性となるよう数値校正しています。)で行っても
ほぼ同等の低音が出ていることからそれほど通常酷い状態ではないかと思ったりします。

【測定(E)MDR-CD900STの応答】:測定結果(周波数特性とインピーダンス)

【グラフ(E)−1】


【グラフ(E)−2】



【グラフ(E)−3】

耳との結合による効果:@vs.A

ここから、いよいよヘッドホンを頭に装着します。
装着することで「自由空間への直接放射」から、「概ね密閉された空間内での音の伝達」へ以降します。

ドライバ〜耳間がもしも完全に密閉された小さな空間であれば、空間内の空気はバネとして働き、
あたかも注射器のピストンのように振動板の変位がそのまま鼓膜へ伝わるはずです。
このような理想的な密閉状況では、「f0以上で-12dB/octで音圧が低下してしまう」というとってもイヤンな現象が発生します。(そのへんのリクツは下の俺学習帳で。)


・・・しかしながら、です。
そんなに酷い特性のヘッドホンってあんましないですよね?
仮にf0以上で-12dB/octも低下してしまったら、例えばMDR-CD900STのf0は概ね80Hzなので、160Hzで-12dB低下、320Hzで-24dB低下、以下同様で
12,480Hz(十分可聴範囲)ではなんと-96dBもの音圧低下が起きることになってしまいます。


では実際どうか?というのがこの結果です。

@とAを比較すると、f0以上では相対的には-5dB/octの低下であり、-12dB/octといった大きなものではない様子が見えます。(グラフ(E)−3参照)
400Hz〜700Hzというごく狭い範囲では-12dB/octに近い傾きの部分はありますけれど、700Hz以上の高音では-5dB/oct程度。
さらに10kHz以上にもなるとさらに低下の程度が緩やかになっています。


これは結局のところ、密閉型とはいえ「ドライバ〜耳の間は完全に密閉された小さな空間となっていない。」ことが原因と思われます。

その理由として憶測するに、以下ではないかと憶測したり・・・

・ハウジングのバックキャビティ(おおよそ容量20cc)と前面の空間(6〜10cc程度)は完全に隔離されていない点。(振動板前面の空気は後ろに回り込むことが出来る。)
・イヤパッドの密閉性が完全にはならず、正しいプレッシャーチャンバーの状態にはならない。

これらの理由から、密閉型とはいえ放射インピーダンスの影響が無視できない状況なのではないかと憶測したりします。


・・・間違ってるかもしんないですが。

おまけ測定

開放型ヘッドホンでの装着時と非装着時の音圧の差

・開放型のヘッドホンのサンプルGRADO GS1000(開放型/背面開放。f0は91.7Hz)について同様の測定をした結果

これを見ると、密閉型って高音の音圧が低下っていうより、低音が出るようになってるんだねっていう印象。
・・・んであれば、低音増加はドライバ背圧調整などでかなーりコントローラブルなのではないかなーと。
(逆に開放型は低音増強が少ないって傾向かしらん。高域はしっかり密閉型と同程度に下がってます)


総合的に見ると、イヤパッドによる密閉度ってそれなりに重要なのだけれども、バックキャビティとの連結や容量、ドライバ背圧の逃がし方なんかを総合的に見ないと
「密閉/開放型」だけで議論しても意味なさげです。




【まとめ:俺感想と反省】


・最終的に期待する応答となるべく、各部のチューニングは相当綿密に行われている様子が見て取れますた。
 特に低音(80Hz近辺)のMDR-CD900STのハウジング+吸音材の効果はグレートで思わず膝を叩いてしまうほどです。他のヘッドホンでも同じなのかしらん?

・フツーのヘッドホンにも多くの調整パラメータがあり、しかも相互に関連しあっているシステムを成している。
 なので単純に何か1つのパラメータが良くなるように弄っても、システム全体での応答は必ずしも良くはならない可能性があることが伺える。魔改造は慎重に。
 でもBass plugと吸音材。弄ってみたいすねい。でも自己責任だYO。

MDR-CD900STについては、イヤパッドで密閉した際の高域全体の品質は、ドライバーのフリーフィールドでの音圧特性と比べてもそんなに酷く劣化してはいないように見える。
 要するに密閉型の高音ってそんなに酷いもんでもないのでは?と思ったり。

・あまりドライバーの謎には迫れなかった。アセンブリだから非破壊で調べるのが難しいしなぁ・・・。
 振動板前面のイコライザーとか取っ払って効果を測りたいところ。




以下 余禄。

大変な間違いがあるかもしれない
【俺学習帳】


「弾性制御とか何言ってんの? しぬの?」ということなどついて概要を書いてみます。

・・・っていうか音響工学の教科書も読み通したこともないので、まともなことが書けるのか甚だ自信なし。

そんな心許無い俺ではありますが、難しい数学はさておき概念だけでもパラパラと理解しときましょうかと。(ひとり言)



俺学習その1:ドライバーの振動板は概ねどんな風に振動しているのか?


まずは、極端に単純化したモデルで、振動板の動きを探ってみませう。

【大雑把なスピーカーのモデル=1自由度系の強制振動】

重り:振動板の質量
バネ:振動板を支持する部分のバネとしての働き
機械抵抗:ボイスコイルに発生する逆起電力や、サスペンションによる抵抗


以下のグラフは、外力(アンプで発生した電圧)の周波数を変えていった時に
振動板(モデルでは「重り」)の、(A)振幅の大きさ、(B)速度の大きさ、(C)加速度の大きさがどのような応答をするか計算してみたものです。(計算つーてもエクセルですが・・)
(1自由度系の強制振動を解いているのに他ならず、これはスピーカーだけではなく様々な分野で出てくる基本的な振動の形態であります。)

Q(振動の鋭さのめやす)を幾つか振ってみました。
Qが大きい状態というのは固有振動の収まりが悪いというデメリットあり。
かといってダンパーを効かせてQを0.5以下などと「オーバーダンピング(過制動)」してしまうと低音が出なくなってしまうので、ホドホドの値が良しとされています。
普通のラウトスピーカーでは「Q=0.7程度が適度な制動で良い」と言われているようです。
(ユニットの特性を表す、Q値や「T/Sパラメータ」と呼ばれるパラメータ郡は、インピーダンス特性を見ることで分かります。)

(A)外力(アンプ)の周波数に応じた振動板(ドライバの振動板)の変位 (B)外力(アンプ)の周波数に応じた振動板(ドライバの振動板)の速度 (C)外力(アンプ)の周波数に応じた振動板(ドライバの振動板)の加速度


これらのグラフは、結局のところ「大雑把なスピーカーのモデル」という1つの現象を、いろいろな側面で見たものにすぎませぬ。



(A)変位(振幅)は:fsまでは振幅一定。fsより高い周波数では-6dB/octのダラ下がりに振幅は少なくなっていく。
(B)速度は:fsをピークに(最大速度)、両肩は速度ダラ下がり。
(C)加速度は:fsまでは+12dB/octで加速度は右肩上がり、fsより高い周波数で加速度は一定。




俺学習その2:振動板の振動は、どのように音圧に変換されるか?

さて、「大雑把なスピーカーのモデル」で振動板の振幅の大きさ、速度、加速度はおおよそ分かりましたよ、と。

では次に、この振動はどのように音圧に変換されるんでしょうかということについて。

その2-(1)放射インピーダンスとはなんぞや

まずは、教科書で学習する通りにいきますと・・・
自由空間で音を放射する場合に、動いている振動板が周囲の空気から受ける抵抗力を表すのが「放射インピーダンス」とのこと。

「放射インピーダンス」・・・恐ろしげなる言葉ですが、基本的なイメージはそんなに難しいものでは無いと思います。

「放射インピーダンス」が何故、振動→音への変換に関係するのか?といえば
振動板が周囲の空気から受ける抵抗が大きいほど、振動板が周囲の空気を上手く捉えて音に変換している、という目安になるからです。
振動板がまったく抵抗を感じないような振動(たとえばゆ〜っくりとした振動)では音も発生しないことになります。
あんまり振動が遅いと、空気が振動板の脇に逃げる方が速くて有効に圧力とならないからですね。

また放射インピーダンスには実部と虚部があり、それぞれ以下の対応あり。

実部:音響出力の目安。(大きいほど効率が良い)
虚部:空気による付加質量の効果。

よって、放射インピーダンスの実部が、振動が音圧に変換される効率の目安となる。


その2-(2)無限バッフル+円形板の放射インピーダンス

導出の方法はそのスジの教科書を参照!(汗)。
結果はすでに偉い人が出してくれているのでここでは楽をしましょう。だって大変そうなんだもん。
(そのスジの教科書では「ベッセル関数」だとか「シュトルーペ関数」などといった恐ろしげなるスーガクを使って導出している。鶴亀鶴亀)

単純化のため「振動板をただのまっ平らな円板」として、「完全なピストンモーションをしている(分割振動は無しよ)」となっています。




高音になるほど、振動板がしっかりと空気を捉えて、効率よく振動を音に変換していることがわかります。(ka=2πa/λ)

直接放射型のスピーカーでは、上のグラフで低音〜ka=1程度(実際はグラフを見るとka=2程度までいけそうですが)となる範囲で音圧特性を出来る限りフラットにすることが必要であり、
この要求に応えるためには、上のグラフで「右肩上がり」の範囲では、これとは逆に振動板の速度と外力の周波数が反比例している振動領域を使う必要がある

んじゃあその振動領域ってどこよ?っていうと
上でやった「大雑把なスピーカーのモデル」の速度のグラフを見てみると「f0より上の周波数」で-6dBで
うまいことに振動板の速度と(外力の)周波数が反比例しております。
直接放射型の場合はここを積極的に使え!ということになります。



長かったのでまとめると
・自由空間での放射インピーダンス(=音への変換効率の目安)は低域〜中域にかけて「右肩上がり」になっている。
・この「右肩上がり」の領域でフラットな音圧を得ようとした場合、「振動板の速度が右肩下がり」=「振動板の速度と周波数が反比例している振動領域」であることが必要。
・「振動板の速度が右肩下がり」なのはドコか?と言えば、「f0より上の振動領域(-6dB/oct)」であり、ここをメインに使って音作りをする必要がある。
となります。

んで、f0より上の振動領域は一般に「慣性制御」と呼ばれている。

なんで「慣性制御」などと呼ばれているか?というと、
f0よりも高い周波数では振動板の動かし難さ(機械インピーダンス=バネ定数+機械抵抗+慣性)の要因は、
振動板の慣性(質量)が支配的で、振動板のバネ定数や機械抵抗は殆ど無視できるから、ということでござる。

あー長かった。


その2-(3)コーン状の振動板の放射インピーダンス

上の(2)のモデルは単純化のため、振動板を「ただのまっ平らな硬い円板」とみなした場合の結果でありますが、
「コーン状の振動板」について、興味深いサイトがありましたので参考に見てみましょう。

(参考URL:http://www.wvier.de/texte/AES112_JP_Rad_Imp_Cones.pdf
有限要素解析による結果、P.10、P.12、P16を参考に、円板形と比較するグラフを作ってみました。)



こちらの結果によると、振動板の形状がコーン状になるにつれて、
高音部での放射インピーダンスの低下(概ねka=2〜4程度の高音でストンと音圧が落ちるている)が顕著になる事が分かる。

MDR-CD900STの振動板の有効振動半径は良く分かりませんが、
a=18mmくらいとすると、ka=3で概ね10.2kHz。(ka=1では3.4kHzだったのでその3倍ですね。)


【2008/3/28追記:下記の憶測はおそらく間違いです。】
MDR-CD900STのドライバの周波数特性が10kHz超で音圧がストンと落ちているのと
もしかしたら関係あるのかも・・・いや完全に憶測だからどうでもいいですが。



その2-(4)ヘッドホンやイヤホンでは放射インピーダンスはドーなっちゃうのか?

一方、ヘッドホンやイヤホンはパッドを介して耳と結合した、閉じた狭い空間で音が鼓膜まで伝播している。
振動板と鼓膜の間は、6cc〜10cc程度の密閉された空間であり、この空間にある空気はバネのように働くと、その筋の教科書には書かれています。

よって、ここまで書いといてナンですが、上で仮定した「放射インピーダンス」が成立しない状況であります。

結局、振動板と耳が小さくて密閉された空間で結合された場合に、鼓膜に発生する音圧は

鼓膜に発生する音圧=振動板の有効面積×振動板の変位

となります。(これはイメージしやすいかと思います。注射器のピストンみたいな状態ですかね。)

よってこの場合、音圧を周波数によらず一定にするためには、振動板の変位が一定な「弾性制御」の領域を使えばよいと言うことになります。


・・・ですが、上の「測定(E)」でも書いたとおり、そこまで理想的に密閉された状況はそうそう無いと思われ。


たとえば、MDR-CD900STのバッフルには音響レジスタ、というか空気を適度にリークさせるための穴が多数開いてます。
(紙のレジスタ付きなので甚だしくはリークしないと思いますが。)
この穴でドライバ背面のキャビティと連結されており、振動板前面と背面の間で空気の漏れはあるし、
キャビティ全体としてはソコソコの空気のボリュームとなって(30cc程度か?)
ちょっぴり直接放射的なファクターもあったりやしませんでしょうか。という疑いをもってます。

全然間違いかもしれませんけどね。


俺学習その3:分割振動ってどのくらいの周波数から起きているのでせうか?(2009/3/28追加)

これも全然分かんないすね。


分割振動の様子を観測する方法も良く知らないですが、

おそらく、高い時間的・空間的な分解能を持つ
レーザー変位計を使うのがベストではないかと推測します。
(100kHz程度の応答性を持つミクロンオーダーまで測れるものはこの世に存在しているようです。)

しかーし!そんなのは個人で買えるシロモノじゃあありません。
(あたりまえか・・)


ですので、高望みをせずに、ここはなんとなくウスラボンヤリとでも分かるといいな・・・
というくらいの姿勢で観察してみることに。


今回以下のように観察してみました
@振動板の「センター部分」と、「ボビンの部分」(ボイスコイルの位置)に0.5mmφ程度の白いマーキングをする。
 (自分は修正液を楊枝の先に付けて塗りました。いい加減だなあ・・・)
A室内を暗くして、マーキング部分に正面から照明をあてて光らせる。
 (自分は光源に安価なラインレーザを使いました。こんなのです。)
Bなるべく横からカメラで長時間露光で撮影(といっても1sもあれば良し)。

・・・とまあ、とってもいい加減なものではありますけれど

うまくいけば、大まかではありますが変位の大きさが光の筋となって観測できるはずでありんす。


【観測方法】
そしてMDR-CD900STのドライバの無残な姿・・・
振動板が露出するように、プロテクターを無理やり剥ぎ取っています。
ごめんなさいごめんなさい



結果!

10Hz

それなりに2つのマーカーの振動が光の筋になって見えてます。しめしめ。

んで
センター部分と、ボビン部分は同じ振幅に見えます。
100Hz

10Hzと状況変わらず。

なお、f0はおおよそ100Hzなので、以降振幅は-12dB/oct
で減衰してしまうため、
観測がだんだん難しくなってきちゃいます困ります。
【参考】
高速度撮影動画(1200fps)

100Hz_short.avi
あー。白く汚いマーキングは自分が適当に付けたもの
です。気にしないでください。

フツーの大振幅なピストンモーションですね。
よしよし。
(2008/3/29追加)
200Hz

f0を超えたため、全体の振幅は-12dB/octで減少
しかしまだセンター部分と、ボビン部分はほとんど同じ振幅
に見える。
【参考】
高速度撮影動画(1200fps)

200Hz_short.avi
向かって右側のドライバ背面の穴2個が開口部の位置で
す。
なんだか右側の振幅、元気ないなあ・・・
(2008/3/29追加)
300Hz

センター部分は殆ど静止しているが、ボビン部分はそれなり
に動いている。
分割振動してるように見えますが、如何でしょうか。
【参考】
高速度撮影動画(1200fps)

315Hz_short.avi

こ・・これは・・・・

いわゆるRocking Motionというやつでせうか?300Hzに
して?
本人もあんまり信じられないのですが・・・。
(2008/3/29追加)
500Hz

このあたりが観測の限界かも。
マーカーのサイズに対して振幅が不十分で、動いている様子がほとんど分からない。

マーカーサイズをもっと小さくしないと観測出来ないものと思われ。


分割振動ってどのくらいの周波数から起きているのでせうか?について
俺結論:


かなーり適当な観察であり、疑わしいけれど
MDR-CD900STでは、もしかしたら300Hz程度から分割振動をしている・・・かもしれない。

・・・とすると、
もしかしたら320Hzの周波数特性やインピーダンス特性のアノーマリは
ヘルムホルツ共鳴なんかではなく
分割振動のためなんですか?


でもなあ・・周波数低すぎるし我ながらホントかいなと

どなたか教えてプリーズ。


(2009/3/29追記):
どうも300Hzあたりから分割振動(Rocking Motion)しているようでありんす。
動画を見ると、どーしてもそう見えるんですが
毎度のことながら、何かまた自分がヘマをいてるんでせうか・・・



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